己を知り学生を知らば百答危うからず(その14)

己を知り学生を知らば百答危うからず(その13)に引き続き、法政大学の植物病原菌類学で出た質問と回答を紹介します。

:細胞性粘菌はなぜ原生動物界に分類されるのか?
:生物8界説では単系統とされる動物・植物・真菌・クロミスタ以外の雑多な真核生物が原生動物界を構成しており、単細胞生物のうち動いて捕食するといった動物的な生態を持つ多様な系統群がそこに入れられてきた。細胞性粘菌は生活環の大部分で単細胞のアメーバで動きまわり細菌などを捕食するところから、原生動物界に入れられていた。しかし、近年、細胞性粘菌(広義のアクラシス綱)も、類縁関係の薄い多系統からなることが明らかとなっている。そのため、現在では「細胞性粘菌」は分類群名としては使われておらず、モデル生物のタマホコリカビ類、特にその1種キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum)を指す一般名として広く使われている。ちなみに、最新の分類では、同菌はアメーボゾア門、動菌下門、タマホコリカビ目、タマホコリカビ科、タマホコリカビ属に所属する(細胞性粘菌)。

問:接合子と接合胞子の違いは何か?
:核相がn(単相)の配偶子が細胞融合に続き核融合した細胞(2n、複相)を接合子といい、接合子が成熟したものを接合胞子という(図3左から3番目)。つまり、接合子から接合胞子の順に未熟から成熟に至るといった熟度の違い。

:べと病菌で間接発芽(遊走子形成)を行う胞子のうは例外なく乳頭突起を持つか?
答:確かに、間接発芽を行うPseudoperonospora cubensis(キュウリべと病菌)の胞子のうは乳頭突起を持つ(cucurbit downy mildew (Pseudoperonospora cubensis (Berk. & M.A. Curtis) Rostovzev), Invasive. org)。 同じく胞子のうに乳頭突起を持つPlasmopara属菌は間接発芽を行うとともに、被のう細胞を介して発芽管を伸ばす場合もある( downy mildew (Plasmopara viticola (Berk. & M.A. Curtis) Berl & De Toni in Sacc.), Forestry images)。一方、乳頭突起を持たないBremia lactucae(レタスべと病菌)は直接発芽だけではなく、ときに間接発芽を行う( downy mildew (Bremia lactucae Regel) Regel, invasive.org)。このように、間接発芽と乳頭突起には関連性はあるが、例外もあって必ずしも相関しているわけではない。

問:べと病菌の4属について特に注意して区別するポイントはあるか?
答:宿主特異性が高いため罹病植物から属・種を識別できるほか、以下の胞子のう柄の分枝パターンと発芽様式の組み合わせでも区別できる。
胞子のう柄の先端は二又分枝    胞子囊は発芽管で発芽・・・ Peronospora
                 胞子囊は遊走子で発芽・・・ Pseudoperonospora
胞子のう柄の先端は手の平・指状  胞子囊は発芽管で発芽・・・ Bremia
胞子のう柄の先端は三又直角分枝  胞子囊は遊走子で発芽・・・ Plasmopara

:放線菌はバクテリアなのに菌糸を形成している理由は何か?
:単細胞のバクテリアは溶液中の生活に適応した形とみることができる。一方、放線菌は穀類、腐植や土壌など固体上での生活に適応した形ではないかと考えられる(図1;佐藤ら , 2023)。菌糸状になったことにより、個体の基質中に菌体を差し込んで酵素を出し有機物を分解して吸収することができるようになり、また、空中飛散型の胞子を発達させ、効率的に分散できるようになったと考えられる。つまり菌類と似たような、あるいは菌類が真似たような進化(収斂進化)の結果かもしれない。

図1.左:籾上のStreptomyces属菌,中:玄米上の同菌,右:同菌のらせん状胞子連鎖.

:なぜ、分生子は色々な形があるのか? 形が違うことによってメリットはあるのか?:生物の進化のプロセスは、突然変異や遺伝子の移動などの遺伝的変化と選択(自然淘汰)の繰り返しであり、分生子だけではなく、どんな胞子でも遺伝的変化により形が変わり、それが以前よりも環境条件に適応していれば、生き残ってきたのではないかと考えられる(図2)。それだけ菌類は多様な生活環境に適応し繁栄できたというメリットは大きい。

図2.左からMonilinia, Botrytis, Exerohilum, Alternaria, Stemphylium, Curvularia, Fusarium属菌.

:鞭毛の中身(構造)は一体どうなっていて動くことが出来るようになっているのか?:鞭毛運動を担うモータータンパク質である「鞭毛ダイニン」はATPの加水分解エネルギーを利用して隣り合う微小管の間に滑りを起こし,その滑りが時間的・空間的に制御されて規則正しい屈曲運動へと変換される(モータータンパク質:筋肉の収縮を引き起こすミオシンなどと同様の働きをする分子)。内腕ダイニンは主に鞭毛の屈曲を維持し,外腕ダイニンは鞭毛打頻度を上昇させる機能があるらしい。鞭毛にはモーター活性が異なる多種類のダイニンが存在し、それらが協調して規則正しい屈曲運動を実現していると考えられている(一般社団法人 日本生物物理学会 鞭毛・繊毛運動「真核細胞が生やす毛が起こす運動のしくみ」)。

:なぜ(病原)菌類は人間などの動物ではなく植物を宿主としているのか? それによるメリットはあるのか?
:約5億年前、植物がアーバスキュラー菌根菌に似た共生菌とともに陸上に進出したことを示す化石がある。その後も陸上で菌類と植物は密接な関係を継続し、植物の内生菌や寄生菌が進化したと考えられている。これにより菌類は主に植物を基質(餌)として優占的に利用するメリットを得ることができたと言える。

:マツ枯れを引き起こすマツノザイセンチュウを仮に他の木に接種したら発病するか? マツ枯れで枯れたマツにはサルノコシカケの仲間ヒトクチタケが発生するというが(ヒトクチタケ きのこ図鑑)、このキノコは枯れてから時間が経つと発生しないと聞いたがなぜか?
:マツノザイセンチュウをマツノマダラカミキリに接種し、マツ類に穿孔させれば発病すると予想される(「他の木」がマツ以外の樹種を意味するのであれば、発病しない)。木が枯れるとすぐにヒトクチタケが侵入するようだが、木材の分解にも腐朽菌の遷移があり、時間が経って他の菌に入れ替わると子実体はできなくなるためと考えられる。

:分生子と胞子の違いは何か?
:分生子は無性胞子の一種(図2)。胞子には遊走子、胞子のう胞子、厚壁胞子などの無性胞子(図3右から1,2番目)や卵胞子、休眠胞子、接合胞子、子のう胞子、担子胞子などの有性胞子が含まれている(図3左から5番目まで)。胞子はこれらすべてを表す総称。

図3.右から休眠胞子(Olpidium、森 充隆氏原図),卵胞子(Phytophthora)、接合胞子(Rhizopus),子のう・子のう胞子(Diaporthe),有色2細胞の冬胞子から伸びた担子器と発芽した担子胞子(Puccinia),厚壁胞子(Fusarium),胞子のう胞子(Rhizopus).

:不完全菌類には全く有性生殖をしないものはあるか? 有性生殖をしない菌類の場合、進化のスピードが遅く生存に不利だと思うが、なぜ高頻度で有性生殖を行わないのか?
:炭腐病菌Macrophomina phaseolinaや褐斑・葉枯病菌Corynespora cassiicolaなど、これまでに1度も有性器官が報告されていない植物病原菌も少なくない(図4)。菌類の遺伝子の組換えは有性生殖だけではなく、菌糸融合による準有性生殖、CD染色体の水平移動(日本植物病理学会,2019, 植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース,p.58-64.)や異種間の遺伝子の水平伝搬もあり、有性世代を失ったと思われる不完全菌類でも、環境変化に伴い進化は遅からず進行していると推測される。

図4.左から3枚:Macrophomina phaseolina(左:分生子形成、中:分生子、右:菌核),右から2枚:Corynespora cassiicola(左:分生子柄・分生子、右:分生子).

:不完全菌類はなぜ有性世代がないのか? 不完全菌類はなぜ有性世代を形成しなくなったのか? 無性世代のみで環境の変化に対応することができるのか? 環境への適応力を高めるために多くの生物が有性生殖する方向へ進化したのに対し、なぜ不完全菌類は有性生殖をしなくなったのか?
:不完全菌類にはまだ有性世代が見つかっていないものと有性世代を失ったものが含まれている。失った理由の一つは、作る必要がなくなったからではないかと考えられる。Fusarium属菌が持つような厚壁胞子や炭腐病菌のように菌核を作る種は越冬などのために耐久性の高い有性世代を作らなくても済む(図3, 4)。また、有性世代を作るエネルギーを省き、無性胞子を大量に作る方向に進化した可能性もある。一方、交配型の片方が絶滅したか、分布が隔離されてしまったことも考えられる。有性世代を失った不完全菌類は、準有性生殖、CD染色体の水平移動や遺伝子の水平伝搬(上記回答参照)などを利用し環境の変化に適応して生き残ってきたと推測される。

:分生子形成には分節型や出芽型があるが、分生子柄の中には分生子の元が詰まっているのか? それとも、できた分生子柄内で形成されるのか?
:分生子柄には必ず分生子形成細胞があり、それが分節あるいは出芽して分生子を形成する(図5)。なお、分生子殻や分生子層内に生じる分生子柄には分生子形成細胞のみからなるものが多い(図4一番左)。分節型の分生子形成では、伸びた菌糸の隔壁部で一斉に断裂して各細胞が分生子になるため、分生子形成細胞(菌糸)の中に分生子の元が詰まっているともいえる(図5右上)。また、細長い分生子形成細胞の内壁に横隔壁が入り、そこで分裂して分生子になるタイプでは、内部でできた分生子が順次外に押し出される(図5中)。

図5.左:Nigrospora属菌の全出芽型分生子形成,中:Thielaviopsis属菌の内出芽型分生子形成(C:分生子,G、分生子形成細胞,P:分生子柄,IC:分生子形成細胞内の分生子),右上:Geotrichum属菌の分節型分子形成.

:分生子はどのような環境条件下で形成されることが多く、どのような役割を果たしているのか?
:多くの場合、栄養豊富な基質や培地上で容易に形成される。栄養条件や環境条件が良好なとき、分散と体細胞分裂による増殖が主な役割。

:分生子の形状と環境の相関性はあるのか?
:直接紫外線の当たる葉の表では、Alternaria属菌など色の濃い多細胞の大型分生子を作るものが多く(図2)、葉の表に分生子層を作るColletotrichum属菌も褐色の剛毛を生やすものが多い(剛毛は何のために生える? -その2- 菌を知らば百選危うからず)。逆に紫外線の弱い葉の裏では、Pseudocercospora属菌やAlbugo属菌(白さび病菌)など無色から淡色の分生子(遊走子のう)を作るものが多く(図6)、Coccinonectria pachysandricola(フッキソウ紅粒枝枯病菌)の日陰に形成される分生子座とその剛毛も無色である(剛毛は何のために生える? -その2- 菌を知らば百選危うからず)。

図6.左:Pseudocercospora属菌の分生子柄・分生子、右:Albugo属菌の遊走子のう.

:全ての菌は何かしらの違いがあって見分けられるものなのか? 分生子の形態や形成方法が似ている菌がいたら、どこで判別しているのか?
:最近はDNAの違いだけで新種が提案される例もあるが、ほとんどの種は何らかの形態的識別点があり見分けられる。分生子などの色・形・形成様式などの特徴が似ている同じ属内の種は、各器官のサイズや表面構造が違っており(図7)、植物病原菌では生育温度・生育速度や寄生性(宿主範囲)などの性質が異なる。

図7.Uromyces wedeliae (キダチハマグルマに寄生)とU. kawakamii(左下:ハイニシキソウに寄生)の冬胞子の大きさと表面構造の違い(バー:5 µm, 前者は固着性,後者は飛散性).