AI(えー、あい)変わらず土壌病害の診断は無理?

 今回はAI病害診断に関するお話です(事実と異なる記述がある場合はご指摘下さい)。膨大な植物病害の画像を学習させたAIに実際の病害を診断させる発想は、筆者が農研機構にいた頃からありました。確か、農水省による「人工知能未来農業創造プロジェクト(2017年度~)」で開発されていたと記憶しています。これに先駆けて、和歌山県の農業資材販売会社が無料通信アプリLINEを使って病害虫を自動で診断する「アグリショット」を開発しました。これは当時カンキツ類の病害を対象にしたパイロット的なAI病害診断システムでした。ユーザーが写真を送ると5秒ほどで結果が戻ってくる画期的なもので、診断結果に対する問い合わせ先も完備され、無料で利用できる上に至れり尽くせりだったようです。その後、農研機構は2021年、法政大学と株式会社ノーザンシステムサービスとともに開発したトマト・キュウリ・イチゴ・ナスの葉表の病虫害判別器(AI病害診断システム)を公開しました(図0)。翌年、上記の研究グループは8作物(モモ・ブドウ・ピーマン・ダイズ・ジャガイモ・カボチャ・キク・タマネギ)を診断対象に追加し「農研機構AI病虫害画像診断WAGRI-API」として農業データ連携基盤(WAGRI)を通して有料公開しました。この更新版から害虫と一部の作物については葉裏の病害も対象となりました。なお、これはWAGRIに参画しなくてもつくば市の農研機構「食と農の科学館」で試用することができます。手持ちの画像ではなく備え付けの写真を基に診断するため実力のほどは計れませんが、診断速度などは実感できます。お気付きの通り、現在は12作物の主に地上部の47病害が対象で、そのうち土壌病害はわずか5病害(トマト青枯病、イチゴ萎黄病、ナス青枯病・半身萎凋病、ブドウ根頭がんしゅ病)が対象です。地上部病害はもちろん、それらの土壌病害は普及員やJA指導員だけでなくベテラン生産者にもお馴染みの病害ばかりで、AIに頼らずとも7~8割の精度で診断できるでしょう。12作物対象バージョン以降の情報がないため将来どう発展するか分かりませんが、もっと判別の難しい病害の診断が期待されます。特に土壌病害は確度の高い診断が求められます。特徴的な菌核が地際に群生する白絹病は別として、土壌病害の診断ではどうしても病原の標徴・顕微鏡写真が必要になると考えられます。それには、以前紹介した農業生物資源ジーンバンクの微生物画像データベースの顕微鏡写真をさらに充実させて、AIに学習させることが近道ではないかと思います。また一方で、現場で普及・指導に当たる方々が病原の観察・撮影テクニックを身に着ける必要があるでしょう。

図0. 2021年版AI病虫害画像診断システムの診断対象とされたトマトの葉表糸状菌病害(人間でも診断しやすい病害).A:うどんこ病,B:灰色かび病(山本 喜氏原図),C:葉かび病(葉表),D:葉かび病(Cの葉裏).

 ところで、筆者は2019年3月、後に当NPO法人の会員となられた市浦 茂氏の物体検出AIに関する研修で、収穫枝豆などの画像選別AIを見せて頂き、誰でも作れるのではと感じました。その後、市浦氏を新潟食料農業大学にお招きして、AIとロボットを組み合わせた新しい作物の栽培管理について講演して頂きました。終了後、学生・教員対象の物体検出AIの試作研修の開催をお願いしたところ、夏休みに山形大学農学部やまがたフィールド科学センター(演習林)で1泊2日のAIトレーニングキャンプを開催して頂けることになりました。このキャンプには新潟食農大から2年生5名、教員4名、企業から1名、山形大の学生1名・院生2名(当時社会人留学中の市浦氏と森 智洋氏)が参加し、2日目のディスカッションには同院生2名の指導をしておられた山形大の片平光彦教授が駆けつけて下さいました。以下に研修の概要を紹介します。
 午後、演習林施設に到着すると、さっそく教員と学生・会社員が組になって3グループに分かれ、森氏による講義と実習が始まりました。それは、
1. 物体検出について(講義)、
2. 物体検出に関わる技術について(講義)、
3. アノテーション作業(実習)、
4. ディープラーニングによる物体検出用AIの作成(機械学習)、
5. 作成したAIによる物体検出(実習)
の5部からなっていました。
 まず、物体検出とは、画像認識(分類):画像に映っているものが「何か」言い当てることと、物体検出:画像や動画の中から「どこに、何があるのか」探しだすことであり、物体検出は画像認識の上位互換ともいえることが説明されました。それにより「何かを見つけ判断する」こと、農業分野では例えば、収穫物の選別(良品と不良品を見分けて類別)、植物の病気の検出(罹病部を見つけて病気の種類を特定)、あるいは農作物の収穫(収穫適期のものを発見)などに応用できるということでした。物体検出の技術では、フレームワークと物体検出アルゴリズムについて解説があり、前者はAIを作成するために必要なシステムの集合体のことで、今回はDarknet(ダークネット)を利用しました。後者は物体検出を行うためのアルゴリズム(システム)で、画像や動画内から対象物を探索してその確率を算出する役割をもち、今回はYOLOを使用しました。両方とも比較的扱い易く、高精度であることから、初心者向けであるとのことでした。次はいよいよ実習ですが、
①画像や動画の収集、
②アノテーションによる教師データの作成、
③ディープラーニングに必要な設定ファイルなどの作成、
④ディープラーニングによるAIの作成と精度評価、
の順に作業を進めました。①では、筆者は病害診断の基礎となる病徴の検出ができるか試したかったため、大学の畑で発生したサツマイモ斑紋モザイク病の発病葉を何十枚も撮影して持参しました。他の2グループには講師が用意した枝豆の写真、あるいは地鶏のケージの俯瞰動画が提供されました。②の教師データとは「画像中のどこに何があるのか」という情報を画像データに付与したもので、教師データを作成する作業をアノテーション(ラベル付け)と言います。AIに判別させたいものが明確な場合はアノテーションにより「教師あり学習」をさせます。一方、学習データの中の共通する特徴を自由にAIに見つけさせる場合はアノテーションを行わない「教師なし学習」をさせます。筆者はウイルス病斑検出AIを作成するため、学生3名と罹病葉の写真を使ってアノテーション作業を行いました。具体的には、写真に写っている「サツマイモ斑紋モザイク病の病斑」、「それ以外の斑点」、「何らかの原因による穴」の3「物体」に類別し、アノテーションソフトのマニュアルに沿って学習用のラベルを付けていく地道な作業でした(図1)。この時利用したソフトは無料のMicrosoft製「VoTT」で、Windows、Macなどに対応しており画像と動画どちらにも使えます。なお、教師データが多ければ多いほど完成したAIは検出精度が上がり、素材となる画像は鮮明であることはもちろん、少なくとも100枚は必要です。学習素材の写真が少ない場合は図を180度や90度ずつ回転して2倍・4倍に増やすこともできるとのことです。

図1.AI物体検出システムを試作する参加者(右端は講師の森 智洋氏)

 教師データが揃ったところで、③のディープラーニングの準備に移りました。学習用のDarknetとYOLOv3を利用する上で必要なUbuntuの実行コマンドを教えて頂いた後、教師データを移動し、各種設定ファイルを作成しました。この一連の作業は筆者にはハードルが高く、主に学生にやって頂きました。ここまでできたらしめたもので、あとは設定ファイルによりハイスペックPCにディープラーニングを実行させるだけでした。その間、参加者は疲れた天然頭脳のアルコール消毒をしながら情報交換と休息に専念しました。
 翌朝、一晩中フル稼働して学習したPCは(疲れ切って?)静かになっていました。朝食後グループごとに出来上がったAIの評価を行いました。他の班では、主催者側が提供した学習素材(半年前の市浦氏によるAI研修で紹介されたもの)だったため、出来映えが予測できましたが、筆者のグループは独自の学習素材を持ち込んだため、使い物になるか正直不安でした。恐る恐るテスト用写真で検出させてみると、サツマイモ斑紋モザイク病の病斑を複数提示したではありませんか!(図2)ただ、葉の穴は背景が様々で教師データ数も少なかったためか、正しく検出できませんでした。筆者とはまるで別世界の話と思っていたAIですが、実際に作成を体験してぐっと身近な存在に感じました。学生にとっても物体検出AIの概要や限界を知る良い機会になったと思います。AIトレーニングキャンプ開催の労をお取り頂いた市浦氏と講師の森氏に厚くお礼申し上げます。

図2.試作したサツマイモ斑紋モザイク病斑検出AIをテスト使用した結果(赤紫の四角で囲まれた部分がAIの認識した同病の病斑,左下の穴は認識していない。)

 病徴写真から地上部病害をAIで診断することは、すでに一部成功しており筆者の経験も踏まえると、今後も多くの作物で実現できるでしょう。しかし、やはり問題は多くの土壌病害の正確な診断です。今後は、土壌病原の標徴写真や顕微鏡写真を集積しディープラーニングにより病原検出AIを開発することが必要になると予想しています。
 ところで、12月13日(水) 13:00~17:00 開催の「スマート農業推進2023フォーラムin 東北」~生産性向上と環境負荷低減による『みどり戦略』の実現に向けて~ で現山形大教員の市浦氏が「スマート農業技術による、誰もが農業に携われる仕組みづくりを目指して」と題して講演されるそうです。ご興味のある方は、「スマート農業推進フォーラム2023 in 東北」チラシをご覧の上、下記の参加申込みフォームよりお申込みください。なお、参加費は無料です。

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