日本と海外における野生植物上の菌類研究・情報蓄積の比較

 当然のことながら日本では作物病原菌の研究には力が注がれてきました。しかし近年、上に述べたツルマメ寄生菌の研究や岐阜大学のグループによる山野の疫病菌に関する報告はあるものの(影山幸二、私信;植松ら、2019;日恵野ら、2020;Jung et al., 2021)、雑草・雑木を含む野生植物に寄生する菌類の研究は低調です。国内の研究対象は作物病原菌に偏っており、この分野における国内外の研究成果の差は歴然としています。おなじみの日本植物病名目録(データベース)と旧農業環境技術研究所が構築した「日本野生植物寄生菌・共生菌類目録(データベース)」がありますが、後者の情報源は昭和以前の報告や書籍がほとんどです。一方、「Fungal Databases Quick Search Fungus-Host, USDA-ARS https://nt.ars-grin.gov/fungaldatabases/」は海外の代表的データベースで英語やスペイン語などの報告をカバーしており、刻々と新たな植物寄生菌の情報が蓄積されています(図)。例えばダイズ黒根腐病菌(Calonectria ilicicola [Cylindrocladium floridanum])を日本植物病名データベースで検索すると、5件の病名(宿主)がヒットします(日本野生植物寄生菌・共生菌類目録ではヒットなし)。それに対してFungal Databases Quick Search Fungus-Host では113件もヒットします。しかも、その中には病名データベースには収録されていない国内の宿主、ムラサキウマゴヤシ、ブナ、コナラ属が含まれています。それらを総合すると、日本では少なくとも7種の植物がダイズ黒根腐病の伝染源になりうると考えられます。この情報に基づき、農研機構ではようやく雑草・雑木などを対象に同病の伝染源を探し始めたと聞いています。
 野生植物寄生菌の調査は地味な研究ですが、いざというときに伝染源の除去・削減という効果的な防除対策に役立ちます。研究企画・予算配分部門では日本各地の大学など基礎研究機関で取り組むべき重要課題と認識してほしいものです。

引用文献

日恵野綾香, 飯島大智, 大坪佳代子, 升屋勇人, 須賀晴久, 景山幸二.2021. 岐阜市周辺の森林および河川における卵菌類の分布調査. 日植病報 87: 29(講演要旨).
Jung, T. et al (20 co-authors). 2021. The destructive tree pathogen Phytophthora ramorum originates from the laurosilva forests of east asia. Journal of Fungi. 7(3): 226.
植松清次, 森山裕允, 大坪佳代子, 日恵野綾香, 渡辺直明, 吉田智弘, 升谷勇人, 景山幸二
2019. カラムシ,シオジに発生した疫病(新称). 日植病報 85(3):255(講演要旨).

図.植物の寄生菌等を収録した世界的データベース -トップページと規模-