「菌ジャかるた」の読み札はどんな意味?

 お陰様で菌類図鑑トランプ「菌ジャカ」第一弾はすでに約500個が世に出て、「菌ジャカ」をかるたの絵札として制作された読み札も徐々に販売数が伸びています。ただ、五七五の川柳調で作られた読み札は文字数が限られており、なぞなぞのようなものが少なくありません。そこで今回は、読み札が何を表しているのか簡単に解説したいと思います。ついでに、各絵札(菌ジャカ)の関連画像を主にNAROジーンバンクの微生物画像データベースで検索し、そのリンクを表示しました。培養できる菌種はコロニーの裏表やそれが起こす病害の病徴(症状)、および顕微鏡写真が無料で閲覧できます。ぜひ参考にしてください。


黒(Z)

Z-A Alternaria alternata つながった 褐色マラカス レゴ仕立て
 Alternaria属菌の分生子(無性胞子)は褐色で連鎖し、逆さにしたマラカスのような形をしている。レゴで組み立てたように細胞が組み合わさっているため、縦・横・斜めの隔壁(細胞の仕切り)が見られる(微生物画像データベース)。
Z-2 Albugo candida 冬卵 夏白い粉 葉影から
 Albugo属菌(白さび病菌)は植物体上でしか生きられない絶対寄生菌。植物の枯れる冬は卵胞子(有性胞子)で休眠し、春から夏、生い茂った植物の主に葉の裏に白い粉状の遊走子のう(無性器官)を作る(神戸大学,2023図1)。

図1.トキワサルトリイバラの精子・さび胞子(銹子腔)世代の病徴.

Z-3 Colletotrichum truncatum 紡錘に 俵・三日月 剛毛も
 Colletotrichum属菌(炭疽病菌)の分生子(無性胞子)は紡錘形、俵形、鎌形(三日月形)に大別される。分生子層(分生子形成器官の一つ)には暗色の剛毛を持つ種が多い(微生物画像データベース)。
Z-4 Curvularia eragrostidis 木の枝に バターロールが 鈴生りに
 Curvularia eragrostidisの4細胞分生子(無性胞子)は中ほどの2細胞の色が濃く、形も焼き上がったバターロールに似ている。それらは分生子柄が伸びながら次々とできる(微生物画像データベース)。
Z-5 Fusarium graminearum 3部屋の 種がいっぱい トウガラシ
 Fusarium graminearumの長楕円形や棍棒形の子のう(有性器官)はトウガラシのように袋状で、中には主に3細胞の子のう胞子が8個詰まっている(微生物画像データベース)。
Z-6 Neofusicoccum mangiferae 完熟の 輪切りのメロン 種だらけ
 Neofusicoccum属菌の分生子殻(分生子形成器官の一つ)にはメロンの果肉に包まれた種のように、多くの分生子と分生子形成細胞が詰まっている(微生物画像データベース)。
Z-7 Phytophthora sojae 卵抱く 妻を支える 夫の輪
 Phytophthora属菌(疫病菌)の造卵器の中に卵胞子(有性胞子)ができる。ほとんどの種では造卵器を支えるように基部にリング状の造精器が付いている(微生物画像データベース)。
Z-8 Rhizopus stolonifer 貼り付いた 根からストロン 胞子のう
 Rhizopus属菌は植物の根のような仮根で物に貼り付き、その上からストロン(ほふく菌糸)と先端に胞子のうを付けた胞子のう柄(無性器官)が伸び出る(微生物画像データベース)。
Z-9 Rhizoctonia solani 直角に 枝出た後に 壁入り
 Rhizoctonia属菌の菌糸はほぼ直角に枝分かれし、その後すぐに隔壁(細胞の仕切り)ができる。枝の基はややくびれている(微生物画像データベース)。
Z-10 Puccinia sp. いぼいぼの ドカベン抱え 飛び回る
 絶対寄生菌の一大勢力であるPuccinia属菌は表面がいぼで被われたさび胞子をもつ。次の新しい植物にたどり着いて寄生するまで栄養が摂れないため、たくさん養分を抱えて空中を飛び回る(図2)。

図2.トキワサルトリイバラの葉裏のさび胞子堆(銹子腔).

Z-J Diaporthe sp. 子座の中 部屋ができれば 胞子吹き
 Diaporthe属菌は菌の偽柔組織(子座)の中に空洞ができてその内側に細長い分生子形成細胞を密生し、連続的に分生子を作って外に押し出す(微生物画像データベース)。
Z-Q Pestalotiopsis sp. ふわふわと 筍コプター 遊泳し
 Pestalotiopsis属菌の分生子(無性胞子)は筍にローターを付けたような形をしていて、水によくなじみ水中を漂って分散する(微生物画像データベース)。
Z-K Lasiodiplodia parva 周りには ホワイトチョコと ビターチョコ
 Lasiodiplodia属菌は無色透明と褐色の分生子を作る。それらはホワイトチョコやビターチョコをコーティングしたナッツのように見える(微生物画像データベース)。


赤(A)

A-A Alternaria panax 枝の先 褐色こん棒 連なって
 Alternaria panaxの分生子(無性胞子)は褐色で逆さの棍棒形をしていて、枝のような分生子柄の先端に連鎖する(微生物画像データベース)。
A-2 Albugo ipomoeae-aquaticae 作るのは 葉の上だけで 白いいぼ
 Albugo属菌(白さび病菌)は葉や茎の中で白いいぼ状の遊走子のう堆(無性器官)や卵胞子(有性胞子)の詰まった菌えい(肥大組織)を作る(佐藤・埋橋,2010)。
A-3  Colletotrichum karsti 筒の中 八つ胞子 行儀よく
 Colletotrichum属菌(炭疽病菌)の楕円形~棍棒形の子のう(有性器官)には長楕円形でやや湾曲した子のう胞子が8個詰まっている(微生物画像データベース)。
A-4 Curvularia verruculosa クリームの 部屋がいくつも コッペパン
 Curvularia verruculosaの分生子(無性胞子)は長楕円形からボート形で色はほぼ均一だが、各細胞が生クリームを詰めたように見える(微生物画像データベース)。
A-5 Fusarium graminearum 大鎌に かかとが付いて 多細胞
 Fusarium graminearumの鎌形の大分生子(無性胞子)は多細胞で、その基部にはかかと状の突起(脚胞)がついている(微生物画像データベース)。
A-6 Neofusicoccum parvum 砲弾の 詰まった大砲 丸々と
 Neofusicoccum属菌の大砲状の分生子殻(分生子形成器官)には、多くの砲弾形分生子が詰まっている(微生物画像データベース)。
A-7 Phytophthora capsici 出来るのは 袋の中に 遊走子
 Phytophthora属菌(疫病菌)の遊走子は遊走子のう(無性器官)という袋の中ででき、側面に2本のべん毛(スクリューなどに当たるむち状の器官)を持っている(微生物画像データベース)。
A-8 Rhizopus stolonifer 袋から すじ入り胞子 空を飛び
 Rhizopus stoloniferの胞子のう胞子(無性胞子)の表面はうね状の条線で被われていて、空中を飛散する(微生物画像データベース)
A-9 Rhizoctonia sp. 普段から 菌糸ばかりで 繁殖し
 Rhizoctonia属菌は無性胞子を作らず、太めの菌糸と肥大細胞の集合した菌核(多細胞の耐久器官)で増殖する(微生物画像データベース)。
A-10 Puccinia sp. 胞子鎖の 周りを護膜 包み込み
 Puccinia属菌(絶対寄生菌の一つ)のさび胞子連鎖は護膜という1層の細胞層できつく被われている。護膜がさび胞子堆の内圧を高めてさび胞子を弾き飛ばしているという説もある(図2)。
A-J Diaporthe phaseolorum 子のうには 2部屋の胞子 8つあり
 Diaporthe属菌の子のう(有性器官)には2細胞の子のう胞子が8個詰まっていて、胞子の出口に頂環という輪がある(先端の両側に断面が粒状に見える)(微生物画像データベース)。
A-Q Pestalotiopsis foedans 付属糸で 絡まる仲間 一緒くた
 Pestalotiopsis属菌の分生子先端の付属糸は水中を浮遊するのに好都合である一方、分生子同士が絡まり集団で分散すると考えられる。集団であれば単独よりも感染するとき有利とも考えられている(微生物画像データベース)。
A-K Lasiodiplodia theobromae ひょっとこの 口からごはん 吹き出すぞ
 Lasiodiplodia属菌はフラスコ形の分生子殻(無性器官)を作り、ひょっとこの口みたいな孔口からご飯粒状の1細胞分生子を吹き出す(微生物画像データベース)。


黒(O)

O-A Alternaria gaisen 兄弟の 6人肩乗り 曲芸師
 Alternaria gaisenの分生子(無性胞子)は褐色で逆さの洋ナシ形や卵形をしていて、一直線に連鎖する(微生物画像データベース)。
O-2 Albugo ipomoeae-panduratae  色白の 遊走子のう 表皮下に
 Albugo属菌(白さび病菌)の遊走子のう(無性器官)は葉の表皮下にたくさんできて、表皮が破けて飛散し、水があると遊走子を作って放出する(微生物画像データベースPDF農研機構、2011病害虫や雑草の情報基地.)。
O-3 Colletotrichum fioriniae サーモンや 乳白色の 胞子塊
 Colletotrichum属菌(炭疽病菌)の分生子層(無性器官)は湿度が高いと大量の分生子を作って粘塊状になるが、種によってサーモンピンクや乳白色に見える(微生物画像データベース)。
O-4 Curvularia geniculata 枝の先 次々できて 花のよう
 Curvularia geniculataの分生子(無性胞子)は分生子柄の先端にらせん状にいくつもできるため、花のように見える(微生物画像データベース)。
O-5 Fusarium graminearum 房なりの ソーセージかな 大胞子
 Fusarium graminearumの大分生子(無性胞子)は分生子形成細胞から次々と伸びてきて房状になる(微生物画像データベース)。
O-6 Neofusicoccum parvum うろの中 あすは旅立つ サツマイモ 
 Neofusicoccum属菌の分生子殻(無性胞子形成器官)の中には、サツマイモ形の分生子がたくさんできて、順次外に押し出され新天地を求めて旅立つ(微生物画像データベース)。
O-7 Phytophthora nicotianae 先端に 乳頭突起 一つあり
 Phytophthora属菌(疫病菌)の多くの種の遊走子のう(無性器官)の先端には少し出っ張った乳頭状の突起がある(微生物画像データベース)。
O-8 Rhizopus stolonifer 柄の先に 黒玉を成す 胞子のう
 Rhizopus属菌の黒く球形の胞子のう(無性器官)は長い胞子のう柄の先端にできる(微生物画像データベース)。
O-9 Rhizoctonia solani 菌核に なる前急に 太りだす
 Rhizoctonia solaniは太めの菌糸を伸ばすが、菌核ができる前急激に菌糸細胞が膨れる(微生物画像データベース)。
O-10 Puccinia sp. 受精毛 精子が付けば 胞子でき
 Puccinia属菌(さび病菌)の精子器(有性器官)の先には受精毛(雌の器官)が生えていて、性の異なる精子(雄の器官)が付着して授精すると葉の反対側にさび胞子堆ができる(図1、3)。

図3.トキワサルトリイバラの葉の表側にできた精子器.

O-J Diaporthe phaseolorum 茎枯れて 壺の長首 林立し
 Diaporthe phaseolorumの子のう殻(有性器官)は長い首(頸部)を持っている。寄生した茎が枯れてしばらくするとこの首が茎からたくさん伸び出てくる(微生物画像データベース)。
O-Q Pestalotiopsis sp. 尾が1本 髪が数本 蜂の腹
 Pestalotiopsis属菌の分生子(無性胞子)には1本の尾(付属糸)と先端に2, 3本の付属糸が付いていて、蜂の腹のように4本の横線が入っている(微生物画像データベース)。
O-K Lasiodiplodia theobromae 白瓜の やがて日焼けし 縦すじも
 Lasiodiplodia属菌は無色の1細胞と縦すじのある褐色2細胞分生子(無性胞子)を作るが、初めに無色分生子が、その後褐色分生子がたくさんつながって分生子角(角状からひも状の分生子塊)になる(微生物画像データベース)。


赤(B)

B-A Alternaria cinerariae こん棒を こん棒が追う 待ちやがれ
 Alternaria cinerariaeの分生子(無性胞子)は褐色の多細胞から成る倒棍棒形をしていて、原始人が振り回していた武器のように威力がありそう(微生物画像データベース)。
B-2 Albugo candida メガホンに シャボン玉でき 飛んでいく
 Albugo属菌(白さび病菌)の遊走子のう(無性器官)はメガホン形の遊走子のう柄からシャボン玉のように一つずつ生み出され、やがて植物体の外へ飛び出していく(神戸大学,2023図1)。
B-3 Colletotrichum fructicola いつの間に 有性生殖 黒い玉
 Colletotrichum fructicola(炭疽病菌)を寒天培地で培養していると、忘れた頃に黒い球状の子のう殻(有性器官)ができる(微生物画像データベース)。
B-4 Curvularia geniculata トランプの 札を広げて さあ引いて
 Curvularia geniculataの分生子(無性胞子)は分生子柄の先端に少しずつずれながら(仮軸状に)できるため、トランプの札を扇状に広げたように見える(微生物画像データベース)。
B-5 Fusarium graminearum 網もよう つぼの中には トウガラシ
 Fusarium graminearumの子のう殻(有性器官)は外壁が多角形の細胞で被われ網目模様になっている。中にはトウガラシのような形の子のうがたくさん詰まっている(微生物画像データベース)。
B-6 Neofusicoccum parvum 部屋の中 胞子を量産 内出芽
 Neofusicoccum属菌の分生子(無性胞子)は分生子殻の内壁に密生する分生子形成細胞の先端から内出芽(内側の細胞壁が伸びて芽が膨れるように分生子になる)により連続的に作られる(微生物画像データベース)。
B-7 Phytophthora nicotianae 卵産む 交配型は それぞれに
 Phytophthora nicotianae(疫病菌)は異なる交配型が出会って初めて卵胞子(有性胞子)ができる。一方、単独の純粋分離株だけでも卵胞子ができる種もある(微生物画像データベース)。
B-8 Rhizopus stolonifer メガホンに 挟まれ硬い 胞子でき
 Rhizopus属菌は交配型の異なる菌糸が近づくと、それぞれメガホン形の接合胞子支持柄を伸ばし、先端で接合すると硬い壁をもつ接合胞子(有性胞子)ができる(微生物画像データベース)。
B-9 Rhizoctonia solani 菌糸間 多核二核も 合体し
Rhizoctonia属菌には1細胞に多くの核を持つR. solaniと2核を持つ別の種があるが、遺伝的に同じ菌群同士はお互いに菌糸が接触すると融合する(微生物画像データベース)。
B-10 Puccinia ligusticola 夏冬は 1部屋2部屋 春4部屋
Puccinia属菌(さび病菌)の夏胞子は単細胞、冬胞子は2細胞。多くの種の冬胞子は越冬後発芽して4細胞の担子器となり、各細胞から担子胞子を作る(図4、5)。

図4.ムニンハマウドの葉裏にできた夏胞子堆と冬胞子堆.

図5.ムニンハマウドさび病菌の夏胞子堆(淡褐色)と冬胞子堆(暗褐色).

B-J  Diaporthe sp. 米粒と もやしみたいな 胞子たち
 Diaporthe属菌の分生子(無性胞子)には、多くの場合米粒形のα型分生子ともやし形(釣り針形、ひも形)のβ型分生子を作るが、β型は発芽しない(微生物画像データベース)。
B-Q Pestalotiopsis sp. 横縞に二・三毛もある 虫に似て
 Pestalotiopsis属菌の分生子本体には横縞模様があり、先端に2, 3本の付属糸が付いていて虫型分生子と呼ばれている(微生物画像データベース)。
B-K Lasiodiplodia theobromae 生まれくる 胞子の間に 白糸も
Lasiodiplodia属菌の分生子殻(無性器官)の中では無色単細胞分生子と縦すじのある褐色2細胞分生子の他に無色の細長い糸状体が生じる(微生物画像データベース)。

Joker
Joker-1 Phragmidium sp. ケガするぞ みんなそこのけ 刺だらけ
 Phragmidium属菌の夏胞子(無性胞子)には強大な刺が生えていて、食菌性微小昆虫から身を守っているように見える(農研機構、2012)。
Joker-2 Aecidium sp. ただれてる ゾンビの顔か 目も落ちて
 Aecidium属菌のさび胞子の表面はいぼで被われている上、一部の種ではポアプラグと呼ばれる目玉のような粒がついている(農研機構、2011)。