己を知り学生を知らば百答危うからず(その15)

 己を知り学生を知らば百答危うからず(その14)に引き続き、法政大学の植物病原菌類学で出た質問と回答を紹介します。

:分生子の形が違うことでメリットはあるのか? 菌類の生存戦略か?
:一般に多細胞の大きな分生子は長命だが多くは作れず遠くへは分散できないが、単細胞や2細胞の小さな分生子はたくさん作ることができ遠方に飛びやすいので、広く分散するには有利と考えられる。付属糸を持つ分生子は互いに絡み合って複数で分散した方が生き残る率や侵入力が高まり、植物に感染しやすいなど、生存戦略とも言える(図1)。

図1.Pestalotiopsis属菌の付属糸を持った分生子の塊.

:分生子の色はどのような条件で決まるのか?
:紫外線の直接あたる葉の表側に裸生する分生子には、メラニン色素(褐色~黒色)を持ったものが多いが、葉の裏にできる分生子、しかも分生子殻や分生子層内にできる分生子には無色のものが多い(図2)。

図2.左:ハクサイの葉の表にできたAletenaria属菌の分生子,右:ドラゴンフルーツの茎内の分生子殻から形成されたNeoscytalidium属菌の無色分生子塊.

:分生子はその形状によって分類されているが、似たような形がある場合、どのように判別するのか?
:形成様式やそれを生み出す分生子果(分生子柄・分生子柄束・分生子(子)座・分生子層・分生子殻など)が違えば異なる分類群とされる。一方、分生子の形が似ていて形成様式や分生子果が同じであれば少なくとも同じ属の菌と判断する。

:分生子形成様式が特定の環境に適応するためにどのように進化してきたのか?
:細胞増殖の基本様式である二分裂と出芽が分生子形成様式でも基本タイプであり、そこから派生型が生まれて来たと考えられる。例えば、増殖組織分節型は二分裂型から派生し、シンポジオ型は出芽型から生じた形成様式である(図3)。生物はある環境に適応するために進化するのではなく、無作為に生じた突然変異や遺伝子の偶発的移動がその環境に適応できれば生き残り、結果的に遺伝的変化(進化)を遂げる。分生子形成様式も突然変異によりこれまでとは異なるものがランダムに生じ、環境条件に適応できたものが生き残ったと考えられる。

図3.左:ナスうどん粉病菌の増殖組織分節型分生子形成(二分裂の派生型)、右:Curvularia属菌のシンポジオ型分生子形成(出芽の派生型).

:分生子形成様式の違いによってどのような違いが生じるのか?
:分生子の形成効率や形成速度、瞬発性に違いが出る。分節型(図4)は菌糸が育つとその隔壁部で細胞が切れて一気に大量の分生子ができるが、先端で一つずつ分生子を作るアレウロ型(己を知り学生を知らば百答危うからず(その14) 図6左)は、分生子形成細胞が少ない場合形成効率が低いと考えられる。

図4.Geotrichum属菌の分節型分生子形成.

:分生子形成様式により分生子形成の効率が異なるのか?
Penicillium属やAspergillus属菌のように、フィアロ型分生子形成様式のうち分生子が小さく形成細胞が多いものは効率的と言える(図5)。逆に分生子が比較的大きく一つずつ作るアレウロ型(己を知り学生を知らば百答危うからず(その14) 図6左)の菌は分節型やフィアロ型に比べて効率が悪いと考えられる。

図5.左:Penicillium属菌の分生子形成、右:Aspergillus属菌の分生子形成(大谷洋子氏原図).

:分生子の形態や分生子形成様式の種類はなぜ多いのか、それぞれ利点はあるのか? なぜ分生子の形成様式に様々なバリエーションが生まれたのか? 何か都合の良い理由があるのか?
:突然変異や遺伝子の偶発的移動による遺伝的変異と多様な環境による選択、すなわち進化の結果であり、様々な環境に適応して菌類の繁栄に役立っているのでは?

:なぜ分生子形成様式で出芽形の方が多いのか?
:菌類の遠い祖先も酵母のような単細胞であったと考えられる。現存の酵母にはSaccharomyces属菌に代表されるメジャーな出芽型とSchizosaccharomycesに代表されるマイナーな二分裂型がある(Niki, H. 2013: Fig. 2)。どちらも生物の基本的な細胞増殖のタイプを受け継いでいる。多点出芽酵母の娘細胞は母細胞よりも小さいうちに切り離され自力で生育するため、倍の大きさになってから2細胞になる分裂酵母より増殖が速いと考えられる(図6)。そのため出芽酵母が繁栄し、子孫の多細胞菌類で多様な出芽型分生子形成様式が発達したと推察される。

図6.多点出芽酵母細胞(Aureobasidium属菌).

:分生子形成様式には様々な種類があるが、今後菌類が進化することにより新しい型が生成されるようになるか?
:分生子形成様式の基本タイプは全出芽型、内出芽型、全分節型、内分節型であり、それ以上増えることは考えにくい。ただ、それらのタイプの派生型であれば、進化を待たずとも、未知の菌類が未発見の形成様式を持っている可能性はある。

:8型の分生子形成様式のうち複数が合体したような分生子形成は存在するか?
Hortaea werneckii はシンポジオ型とアネロ型の両方の特徴を示す分生子形成を行うが、これらはいずれも全出芽型のバリエーションである(宮治,2003千葉大学真菌医学研究センター・ギャラリー)。

:ポロ型の分生子形成様式の図について、分生子柄の先端は分生子が生えてくる部分か、それとも少しずつ伸びていく部分か?
:分生子柄(図7-CP)の先端は分生子形成細胞が伸びている部分で(図7-EG)、分生子は柄の先端(分生子形成細胞(同G))や側面の孔(同P)から形成される。

図7.ポロ型分生子形成、左:Alternaria属菌の分生子柄、右:Exserohilum属菌の分生子柄、CP:分生子柄, G:分生子形成細胞, EG:出芽孔のわきから伸びる分生子形成細胞, P:出芽孔(Alternaria属菌の右下のP以外はすべて孔縁のリング状肥厚部側面).

:分生子形成様式のポロ型は、分生子がポロっと落ちるからポロ型という名前が付けられたのか?
:ポロ型は穴から絞り出されるように分生子ができる形成様式で、「ポロ」はpore(穴)にちなむ名称(図7 Pの部分)。

:分生子形成様式の一つである「シンポジオ型」は分生子を形成した後、どのような仕組みで横に伸長するのか? また、Rhizoctonia属の菌糸が直角に曲がるのと同じ仕組みなのか?
:菌糸の分枝と同じ仕組みではないかと考えられるが、分生子を枝と考えれば先端伸長ともとれる(図3右)。Rhizoctonia属の菌糸は先端伸長しながら分枝するので、基本的に異なると考えられる(図8)。

図8.Rhizoctonia属菌の直角に分枝する菌糸(上側と左側が菌糸先端).

:シンポジオ型ではなぜ分生子を形成したら分生子柄は反対方向に伸びるのか。また、この菌糸を伸ばすとどれくらいの長さになるのか?
:分生子が大きな場合は、直前にできた分生子が分枝成長の邪魔になるため、ほぼ180度反対側に伸びるが、さほど分生子が大きくない菌では、実際には180度より狭いことが多い(図3右)。シンポジオ型の分生子柄のジグザグ部分は約90度で分枝している場合、伸ばしても倍程度ではないかと考えられる。

:同じ属の菌であれば分生子の形成様式は同じなのか?
:分生子形成様式は菌類の属の重要な特徴(属徴)であり、属内の種はほぼ例外なく共通の形成様式を持つ。つまり、完成した分生子が似た形でも、形成様式が異なれば別の属に分類・同定される(本シリーズ14図2左から1,2番目の写真参照:Monilinia属菌とBotrytis属菌はほぼ無色で広楕円形の単細胞分生子を作るが、前者の形成様式は分節型、後者は全出芽型である)。

文献
宮治 誠(2006):カビによる病気が増えている.農山漁村文化協会(農文協),233P.