己を知り学生を知らば百答危うからず(その13)

 「己を知り学生を知らば百答危うからず(その8)」の冒頭で、2024年前期、筆者は法政大学応用植物科学科植物クリニカルコースの兼任講師(非常勤講師)として2科目担当したことを書きました。そのうち「植物医科学概論」で出た質問とその答は上記の「その8」で紹介しました。今回はもう一方の担当科目「植物病原菌類学」でやり取りした質問と回答を紹介します。この科目は1年生に履修することが推奨されており、2年生以降の実験科目などの基礎となるほか、樹木医補の資格取得に必須の単位になっています。高校を卒業したばかりの1年生は菌類の知識に乏しく、質問は基礎から応用、はたまた、哲学的なものまで多岐にわたりました。

:菌(類)による人体の被害はどのようなことが挙げられるか?
:①湿度(70%以上) 、②温度(20~35℃) 、③栄養源(石けんかす、ホコリ、汚れなど) 、④ 酸素(カビ=好気性微生物)の条件が揃う(梅雨から夏)とカビが発生して胞子を作り、胞子の発芽と生育を繰り返して増殖し、数カ月~数年間生存する。空気中の微細なカビ(青カビ (Penicillium)、麹カビ (Aspergillus)、黒カビ (Cladosporium)、煤カビ (Alternaria))の胞子を吸い込むことにより、アレルギー反応(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咳)が起こる。例:エノキタケ栽培容器を汚染したAspergillus glaucusで栽培者が発症。メロン栽培施設の堆肥に多発したAspergillus fumigatusにより栽培者が発症。醤油醸造工場の隣に住む人が毎年仕込みの時期にAspergillus sojaeにより発症。飼料に増殖したCandida属菌で畜産業者が発症。肥後象嵌(ぞうがん)の製作で使用していたマコモズミUstilago esculentaにより職人が発症。そのほか、身近な真菌症としては人体常在菌Candida albicansによる皮膚や粘膜のカンディダ症やTrichosporon mentagrophytisによる水虫がある。

問:カビは皮膚を通って体内に入る、という記事を見たがそのようなことがあるのか?
答:人体表面(皮膚・粘膜)の常在菌であるカンディダ・アルビカンスは免疫異常の小児の皮膚や粘膜を通して侵入し、慢性粘膜皮膚カンジダ症を起こす。なお黒色真菌による真皮などのクロモミコーシスやスポロトリコーシスの原因菌は皮膚の刺し傷や小さな傷から侵入する(貫通力はない)。また、コクシジオイデス症の原因菌は土中に生息しており、土埃とともに胞子を吸い込むことにより、肺に感染し、全身に転移する(宮治 誠 2006)。

問:カビなどにより腐敗した食物を食べると体調不良になるのに、なぜカビにより熟成されたチーズを食べても大丈夫なのか?
答:食用キノコと同じように、チーズの熟成に利用される菌は原料成分を分解してうまみ成分を生成しても有毒物質は生産しないから。逆にカビが分解した食物に有毒物質が含まれており、人間がそれに対する解毒酵素を持っていない場合は、食べると中毒(体調が悪く)なる。カビによる物質変換という点では両者は同じ現象だが、人間にとって有益な前者は発酵と呼ばれ、不利益な後者は腐敗と呼ばれる。

問:アオカビはカビ毒を生成するものもあるとのことだが、ペニシリン生産に使われている菌はカビ毒を生成しないのか?それともカビ毒を作る原因を抑える仕組みがあるのか?
:アオカビに限らず種や系統・菌株により生産する物質(二次代謝産物)が決まっており、それがたまたま毒性を持っていたり(図1)、抗生物質だったりする。抗生物質は単離(純粋化)して利用されるため同時に毒素が生産されていても排除されるうえ、ペニシリンは細菌の細胞壁合成を阻害するため、真核生物の人間にはほとんど悪影響を与えない。

図1.紅麹事件で問題になったPenicillium puberulumと思われるアオカビの1種.

:ブドウ球菌が(アオカビのコロニーの周りで)溶けていることからペニシリンが発見されたが、どうやってペニシリン(生産菌)というカビだと断定できたのか?
答:そのカビを分離・培養して抽出したペニシリンだけをバクテリアに処理し同じ溶菌現象を確認する一方、カビの分類の専門家が研究しPenicillium notatumと命名した。

(感想):Aspergillus 属菌がメリット、デメリットともに関わっており、同じ属の中でも多様であることが興味深かった。
(補足):酒こうじ菌A. oryzaeとアフラトキシン生産菌A. flavus は極めて近縁で、かつては同種ではないかと疑われたが、前者はアフラトキシン合成遺伝子を失っていることが分かった。Penicillium属でも種により食毒が別れる例がある。

:なぜカビは高温多湿の環境を好むのか?
:カビ(菌類)の生育には水分と温度、栄養(有機物)、酸素が必須だから。特に、多くの菌類は表面積の広い糸状の菌体を増殖させるため乾燥耐性が低く、また、生命維持や増殖に必要な生化学反応が盛んになる20~30℃の温度を好む。

:食べられるキノコの見極め方を知りたい。
:致死性の毒キノコは少ないので、それさえしっかり覚えておけば死ぬことはないが、キノコの専門家と実際に野山を歩いて教えてもらうのが早道で安全(図2)。

図2.毒キノコの1種テングタケの未熟子実体(左)と成熟子実体(右)

:菌は基本的に英語(ラテン語)で表すのか?また、それはなぜか?
:菌類の中で和名があるのはキノコを作るものと、醸造や発酵で使われるものぐらいで、植物病原菌類にはほとんど固有の和名がないため、普通ラテン語の学名で呼んでいる。ただし、例えば、トマト葉かび病菌(Passalora fulva)のように、宿主植物名+〇〇病菌という慣例的な呼び方はある。新種の学名を付けその形質を記載する際、文法や言葉の意味が変動しない「死言語」であるラテン語を使うことが命名規約で義務付けられていた。しかし、ラテン語で学名を付ける決まりは変わらないが、10数年前から形質を記載するのに英語でも良いことになった。それ以降、新種の記載文がほぼ英語で書かれるようになった。

:(スギ)花粉飛散の抑制のために使う(植物)病原菌による人体への影響はないのか(Hirooka et al. 2013)?
:人間の体温はスギの雄花の寄生菌Sydowia japonicaも含めてほとんどの植物病原菌の生育にとって高すぎること、また、人間の免疫機構を突破できないため、人体に寄生できない。また、その菌は花粉のように風で飛散する乾性(風媒)胞子を作らないため、胞子を含むしぶきを吸い込まない限りアレルギーを起こすこともないと考えられる。

:菌根菌のハルティッヒネット、のう状体はどんなものなのか?
:ハルティッヒネットは外生菌根菌の菌糸が宿主の根の細胞間隙に侵入して変形し、宿主細胞を網状に覆う構造(菌根について学ぼう Vol.1 “菌と植物の意外な関係”)。のう状体はアーバスキュラー菌根菌が根の組織内に作る丸い油脂貯蔵器官(アーバスキュラー菌根とは?)。

:外生菌根菌は樹木を病原菌からどうやって守るのか?
:外生菌根菌は根を菌鞘で覆い病原菌の接触を防いでいる(東京大学奈良研究室サイトより)。

:(黄色?)胴枯病にかかってしまったブナは治療できるか? それとも、そのまま伐採して被害を防ぐか?
:症状や子のう殻の形成に気づいた時は手遅れなので、蔓延を防ぐため伐採して処分し森林全体への被害を防ぐ。

:サルノコシカケ科の病原菌が(樹木を加害)腐朽するのは心材部だけであって樹木の生長には影響しないのでは? また、菌類の侵入には幹にできてしまった傷口等、特殊な条件が必要か?
:サルノコシカケ科の菌類は老木や衰弱した木に侵入し、心材部から徐々に腐らせて、最終的に木全体を枯死させるため、そのような木にとっては成長(寿命)に影響する(図3)。老木では風雪などによる枝折れが頻発し、また、老木以外でも鳥獣類、キクイムシやカミキリムシなどの虫害、乾燥・過湿害などの物理的障害、酸性雨などの化学的障害により常に傷付き衰弱する機会が多いため、木材腐朽菌の侵入には特殊条件が必要ということはない。

図3.シマホルトの幹に発生したサルノコシカケ科Ganoderma属の硬質キノコ(子実体)

:ブナの木の分解にはどのくらい時間がかかるか。また、木によって分解にかかる時間は異なるか?
:菌の種類により分解時間は異なる。例えば褐色腐朽菌はセルロースを分解し、白色腐朽菌はリグニンを分解するというように分解菌の遷移があり、最低10年前後はかかると考えられる。もちろん樹齢の異なる個々の樹はバイオマス量が異なり、樹種によっても成分組成が異なるため、分解時間は異なる。

:ブナは何故そんなに(病気続きで)可哀想なのか(ブナの種子、実生苗、成木、老木の各生育ステージに特有の病害が発生し死滅する)?
:確かにブナ種子腐敗病、苗の炭疽病、胴枯病、木材腐朽病などがある。ブナだけではなくすべての植物は、腐生菌とアーバスキュラー菌根菌などの共生菌が無機栄養分の循環と補給を行うことにより健全に育つばかりではなく、寄生菌の感染により病気になり、種子や苗では多くが腐敗・枯死して密度調節を受け、成木や老木では早めに枯れて世代交代が促進されている。個々の樹で見れば病気が多くて可哀そうに見えても、森全体で見ると寄生菌からも恩恵を受けていると言えるため、むしろ幸せではないか。

:木材腐朽菌は腐生菌、共生菌、病原菌のどれなのか?
:初期は病原菌だが、木が枯死した後は腐生菌になる。さらに、病原菌が樹木の密度調節と世代交代を助けていると考えると、広い意味での共生菌ともいえる。

:陽樹と陰樹は生息する場所は違うか?
:生息地の違いというよりも優勢になる順番が異なる。短い期間でみると、極相になる前の場所では陽樹が多く生息し、極相林の地域では陰樹が優勢となる。

:荒原(遷移の初期)ではどのようなタイプの菌類が存在しているのか?
:腐(糞)生菌と共生菌であり、前者はコケ・シダ・草本の遺体とそこに住む動物(昆虫)の糞を分解する菌、また、後者は地衣類の共生菌やアーバスキュラー菌根菌と考えられる(外生菌根菌は主に樹木と共生しているので、遷移の後半に現れる)。

:菌類の隔壁とはなにか?また、どういう役割があるのか?
:菌糸や胞子を構成している細胞の仕切り。菌糸では長軸にほぼ直角に入る(横隔壁)。胞子でも長軸に直角に入るものが多いが、縦横隔壁をもつ多細胞胞子では不規則に入るものもある。子のう菌類と担子菌類が菌糸に規則的に隔壁が入る。隔壁を作ること、すなわち多細胞化すると、傷害を受けた時、細胞質の流出を抑えることができる。また、多細胞化により、子座、子のう果、担子器果、分生子果、菌核、そのほかの子実体など様々な大型器官を発達させ、多様化することが可能となったと考えられる(図4)。

図4.隔壁のある菌類の菌糸や器官.左上:Rhizoctonia属菌(担子菌類)の菌糸(アニリンブルー染色),左下:Alternaria属菌(子のう菌類)の分生子,中上:Sclerotium (Agroathelia) rolfsii(担子菌類)の白い未熟菌核,中下:Setophoma属菌(子のう菌類)の分生子殻,右上:Ganoderma属菌(担子菌類)の子実体,右下:Fusarium属(Neocosmospora属、子のう菌類)の子のう殻.

:菌類の高次分類において、クロミスタ界では菌糸壁がセルロース、菌界では菌糸壁がキチンということだが、クロミスタ界は植物に、菌界は昆虫系に近縁ということなのか?
:クロミスタ界には卵菌類のほかにある種の藻類が所属しており、系統樹上でも植物界と近縁。一方、昆虫の属する動物界と菌界はオピストコンタの仲間で近縁とされている。

:二重命名法が廃止された理由はなにか?
:一般に自然界では菌類の有性世代は形成期間が短かく、観察のチャンスが少ない。一方、多くの菌類は主として無性世代の分生子により増殖・分散するものが多いため、観察されやすい無性世代にまず名前が付けられ、後から有性世代が見つかることが多かった。しかも両世代であまりにも形が違うため、別の名前を付けると扱いやすかった。このため、命名規約では菌類に限り両世代に別々の学名を付けても良いとする「二重命名法」が特例で認められていた。しかし近年、DNAの塩基配列情報により容易に両世代を同種と特定できるようになり、2011年7月の第18回国際植物学会議において、菌類の無性世代名と有性世代名が併存する「二重命名法」が廃止され、「統一命名法」が採用されることになった(2013 年1 月1 日発効)。

:有性世代の培養の仕方はどうするか?
:有性世代の胞子は菌類の培養に好適な環境(水・酸素・25℃前後の気温・有機物)が揃っていれば発芽するが、一部の有性胞子は休眠しており、高温・低温・酸・アルカリ・酵素などの刺激により発芽し生育する。一方、有性世代を培養環境で形成させるには、貧栄養にする、乾燥気味にする、低温にするといった生活しにくい環境にする、また、低温から常温にするなど環境に変化を与えると形成されることが多い(図5)。

図5.貧栄養培地にろ紙片(白い部分)を加えた培地上で形成されたFusarium graminearumの子のう殻(有性世代)

:菌類は葉緑体がなく、細胞内共生がないため動物と近縁であるとあったが、ミトコンドリアは細胞内共生ではないのか?
:菌類の細胞には細胞内共生が起きなかったということではなく、葉緑体の基となった光合成細菌の祖先とは共生していないと説明した。ミトコンドリアの基となった好気性細菌の祖先と細胞内共生し、動物と菌類に進化したと進化系統図を用いて解説した。

:有性世代と無性世代は同時に起こっているのか?
:宿主植物上ではもちろん、培地上でも同時に形成されることがある(図6)。

図6.左:コチョウラン乾腐病菌(Clonostachys rosea)が宿主の葉の上で形成した球形子のう殻(有性世代)と白い分生子塊(無性世代)、右:炭疽病菌Colletotrichum fructicolaが培地上で形成した黒い粒状の子のう殻(有性世代)とクリーム色の分生子塊(無性世代)

:二重命名法が廃止になり統一命名法が採用されると、先に見つけた人がつけた学名が使われるのか?
:古い方の学名が命名規約に従っていれば、そちらが採用されるのが原則。ただ、これまでよく使われてきた学名をマイナーな古い学名の代わりに採用しても良いという例外的ルール(保存名)もある。そのため、いまだに論争が続いており、統一されていない属名や種名もある。

:植物病原菌が、病害を引き起こす原因となるものですか?
:病害を引き起こす原因には主因・素因・誘因があるが、植物病原菌は病害の主因となる(西尾 健監修,堀江博道ほか編著;2017)。

:植物病原菌と植物病原細菌は異なるものですか?
:植物病原菌(類)は細胞内小器官をもつ真核生物、植物病原細菌はそのような構造を持たない単細胞の原核生物で、まったく異なる生物。

:羅患(罹病)した野菜は食べることは可能か?
:病斑部分や腐敗部分を取り除けば食べられるが、野菜の病害抵抗性が発揮され抗菌物質を作っている場合は味が落ちる場合が多い。

:日本国内でジャガイモ粉状そうか病が起きたら、私たちの食生活に影響があるのか?
:この病害は国内では1954年北海道で最初に発見され、以降、九州や本州の多県で毎年栽培面積の10%に発生している(常発病害)。本病による一定の減収(品質低下)はあると言われているが、被害は産地がつぶれるほどではなく、毎年の総生産量や価格にほとんど影響しない(中山,2018)。なお、発病した塊茎でも、表面を除去すれば食用にできる。

文献
宮治 誠,2006.カビによる病気が増えている.農山漁村文化協会(農文協),235 p
西尾 健監,堀江博道・橋本光司・鍵和田聡編著,2017.(植物医科学叢書No.4)植物医科学の世界.大誠社,392 p.